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東京高等裁判所 昭和32年(行ナ)36号 判決

当事者間に争のない事実とその成立に争のない甲第一号証の一、二、三(本件実用新案登録願)、甲第七号証の一、二(訂正書)とを総合すれば、原告の出願にかゝる本件考案の要旨は、「前端を除いて内部に送油孔を穿設した芯杆の前端に、それより太い径を有する杆頭を設け、この杆頭の外周に縦方向の螺旋溝を設けて、各溝の間の隆起条部を螺旋翼とし、右螺旋翼の各前端面から斜めに芯杆の中心に向い送油孔の前端に達する噴油孔を穿設して噴油嘴を構成し、この杆頭を螺旋翼の部分で外管前端内側のほゞ同一長さを有する開口に密嵌して内部噴気口を形成し、外管の前端外側は少しく絞つて、更にこれにその先端を外管の先端とほぼ同一平面上におく套管を嵌装し、套管前端は外管前端外側にならい、漸次絞つて外部噴気口を形成し、また外管にはその内腔と套管内側とを連通する通気孔を穿設した重油バーナーの構造」にあり、その目的は、この構造によつて、外側に向う噴油を旋回する噴気でよく攪拌して微細化し、更にこれを包囲する外部噴気口からの気流によつて完全に霧化すると共に、螺旋溝により外方に四散せしめられる霧状の油を、外套の先端から内方に向つて噴出する外部噴気によつて筒状に包み炉内深くまで突入して、炉壁近くばかりでなく、炉内の奥までも高熱を導くことを得せしめるようにしたものであることを認めることができる。

一方前記当事者間に争のない事実とその成立に争のない甲第五号証とを総合すると、審決が引用した昭和五年実用新案出願公告第二、八二六号公報(昭和五年三月三日公告)には「内部を送油孔とし、これに〓杆を通した油導管の先端に皿状の油調節〓を前方から圧接するように設けて、斜外方に向つて噴油する噴油口を形成し、油導管の外側は先細にして、両端を漸次拡大した噴気口内管内側の稍後方に開口せしめ、噴気口内筒は外周所々に脚を設けて噴気口外筒に嵌合し、外筒はその先端を内筒より突出せしめ、その内側を内方に傾斜させ、漸次後方をラツパ状に拡開して、内筒と共に圧縮空気室に連通させ、内外二重の空気流を以て、中央の噴油と良く混和せしめた重油バーナー」が記載されていることを認めることができる。

よつて右に認定した本件出願にかゝる考案の要旨と引用の公報に記載されたところのものとを比較すれば、両者はともに、中心部に設けた送油管の前端から噴油を外方に向つて斜に拡開するようにした噴油嘴を形成し、この噴油嘴を囲んで二重の送気管を設け後方でこれらを互に連通し、特に外方のものはその先端で絞り、前記噴油嘴から外方に向う斜めの噴油を、先ず内方の気流と混和し、更にこれに外方のものと作用させ、三者を混合させてともに燃焼させる重油のバーナーである点では同一であるが、前者が噴油嘴を構成するに当つて、送油管の前端から噴油孔を、内方の送油孔に向つて斜めに穿ち、送油管の外周に螺旋翼を設け、その外周に内方の送気管を嵌合したのに対し、後者は噴油管の前端に外方から皿状の〓を接せしめて噴油嘴を形成し、内方の送気管には螺旋翼を有せず、外周に軸方向の脚を設けて外方の送気管に嵌合した点で相違する。そして先に認定した当事者に争のないところによれば、審決は、この相違点について、「バーナーの内側の空気の誘導を螺旋溝によつて行うことは、従来の慣用技術に過ぎず、その他の相違は単なる構造上の微差に過ぎないものと認められる。」と説示し、被告代理人は、右慣用技術を示す証拠として、その成立に争のない乙第一号ないし第四号証を提出しているので、先ずこれら乙号各証について審理するに、

(イ) 乙第一号証は、昭和八年十月十一日に公告された特許第一〇五三四七号(昭和八年公告第四四二〇号)「重油燃料霧化燃焼装置」の明細書及び図面であつて、これには「筒杆、円筒体及び蓋片の先端を殆んど揃えた三重の筒体を重ねて設け、その中間のもの、すなわち円筒体にはその内外に互に逆方向の螺旋翼を同一体に設けて、中央の筒杆から噴出する重油を互に逆方向に旋回する二重の螺旋気流と混和霧化して燃焼をさかんにならしめる重油バーナー」を記載し、

(ロ) 乙第二号証は、昭和六年十一月九日に公告された昭和六年実用新案出願公告第一三四二九号「重油燃焼器」の説明書及び図面であつて、これには、「針〓で先端の噴油口を調節する送油管を冠頭片に螺入し、この冠頭片には送油管を囲む噴気口に通ずる傾斜孔と、傾斜孔の周囲の円周上における多数の通気孔とを穿ち、中央の噴油をその周囲の旋回気流によつて微細な噴霧状として燃焼させ、更に外周の空気流によつて燃焼空気を補充させる重油バーナー」を記載し、

(ハ) 乙第三号証は、昭和七年九月十六日に公告された昭和七年実用新案出願公告第一一九一五号「オイルバーナー」の説明書及び図面であつて、これには、「先端を針〓で調節する燃油管の外側前方に先細の空気噴射管を設け、この噴射管には外周面に螺旋翼を設けた円錐形の内筒を嵌挿固定し、燃油管から噴出する油は、先ず内筒内を通ずる気流によつて直線状の油霧となつて内筒の噴射口から噴出し、次に内筒外側を通つた螺旋状気流によつて攪拌廻転されて微細な分子となつて急速に燃焼するオイルバーナー」を記載し、

(ニ) 乙第四号証は、昭和八年四月二十日に公告された、昭和八年実用新案出願公告第五二四四号「重油バーナー」の説明書及び図面であつて、これには、「先端の噴油口を針〓で開閉調節し得る送油管、内外両側に逆方向の螺旋翼を同体に設けた分気筒及び先端の噴気口の大きさを変更し得る進退筒を先端を略揃えて三重に設け、中心の噴油と方向相反する二重の螺旋気流とによつて重油と空気との混合を良くし、最外部の進退筒の進退によつて焔の長短を調節し得るようにした重油バーナー」を記載している。

以上認定するような明細書及び説明書並びに図面が、原告の本件実用新案登録出願以前に、このように公告されている事実に鑑れば、本件出願にかゝる考案と引用にかゝる昭和五年実用新案出願公告第二、八二六号説明書及び図面に記載されたものとの主要の相違点である「送気管に螺旋翼を設けて気流を旋回噴出させて油との混和を良好にすること」は、原告の本件出願当時においては、慣用技術に属したものと解するを相当とする。またその成立に争のない甲第二号証(昭和十三年五月七日に公告された昭和十三年実用新案出願公告第六三〇八号「オイルバーナー」の説明書及び図面)には、「先細の空気噴射管内に燃油噴射管を設け、両噴射管の間を環状の空気噴射間隙とし、燃油噴射管は前端を除いて内部を送油孔とし、先端は外方からこの送油孔に向う斜の燃油噴出孔を穿設して、前記空気噴射間隙に向わしめ、噴気は空気噴射管内の円筒に穿つた数組の導孔とこれに対する鞘とによつて直方向及び度を異にした螺旋状の数種に変更し、焔の長さをも、これに従つて調節し得る重油バーナー」が記載され、これと先に認定した乙第一号証記載の明細書及び図面の記載とに鑑れば、本件出願の考案と引用公報記載のものとのその他の差異も、単なる構造上の微差に過ぎないものと解するを相当とする。してみれば結局本件出願の考案要旨は、引用にかゝる公報に記載された重油バーナーに類似の構造を有するものと判断するの外はなく、実用新案法第三条第二号に該当し、同法第一条の登録要件を具備しないものといわなければならない。

原告は本件出願にかゝる重油バーナーにおいては、霧状になつた重油を炉内深く直線状に飛ばせ、ここで初めて広く拡げて燃焼させることが要点であると主張するが、焔の長さ形状は、噴気口及び噴油口の形状、大きさ並びに各噴気の量、旋回の度等に関係するものであつて、本件考案において特にこれらの構造に関する完全な限定がなされていない以上、単にこれを目的として挙げたとしても、前顕乙第四号証、甲第二号証等に記載するところと対比して、この点について構造上新規の考案をなすものとは解されない。原告はまた本件出願の考案は、純然たる外部混合式のもので、噴油嘴と噴気口とがいずれも殆んど同一平面にあり、引用のものが内部混合式のものであるとの構造を別異にすると主張するが、重油バーナーにおいて噴油嘴と噴気口とが殆んど同一平面にあるものは、前顕乙第一号証、乙第四号証にも見られ、むしろ従来普通であるものと認められるから、この点においても格別新規の考案を構成するものとは解されない。原告は本件のものは炉内で螺旋状に空気と油とをノヅルの外方で混合させ微粒子とし、噴気口の筒状空気で炉内深くまで誘導されるとともに、衝撃を与えて微粒子とするもので、この三者が相俟つて効果を生ずると主張するが、空気と油との混合をよくする手段として空気を旋回運動させることが、原告の本件出願前慣用手段に属したことは、先に認定したところであり、ノヅル外方で混合されて微粒子となつた空気と油とを、外側より包囲するように第一次筒状空気で炉内深くまで誘導するとともに衝撃を与えて更に微粒子とする点では、引用にかゝる公報記載のものと異るところがない。従つてこれら三者が相俟つて生ずる効果についても、特にこの点を明確とする証拠の何ら存しない本件にあつては、前顕甲第五号証に記載された引用のものと、格別の差異あるものとは解されない。

以上説明するところにより、本件出願にかゝる考案は、実用新案として登録することができないものであるから、これと同趣旨に出でた審決は適法であつて、その取消を求める原告の本訴請求は理由がなく、棄却を免れない。

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